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少数零細の奇跡を応援したい#3000文字チャレンジ「マイノリティ」

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「ギンザグリングラス」という名前の馬がいる。ギンザ、と聞くと、僕は銀座を連想する。グリングラスと聞くと、green grass、緑の草から、芝を連想する。直訳すれば、「銀座の芝」となるのだろうか。何とも高級感のある芝なんだろうな、と思う名前だ。

彼は競馬の競走馬であり、現在種牡馬(種馬)である。この馬は、2005年生まれ。戦績は、109戦して3勝の馬である。

 一般的に、この成績で種牡馬になるというのは、よっぽど兄弟や血統が優れており、人気があって人手が、いや、馬手が(脚かな?)足りないから、という理由でもない限り、種牡馬とはならない。しかし、ギンザグリングラスの血統は、世界的に見てもマイナー血統なのである。

競走馬、サラブレッドの世界において、血統ことを「サイアーライン」という。これは、父系に常に属すことになっており、産まれた仔は父系の一族となる。

少し細かい話になるが、かいつまんでサイアーラインについて記す。

 

現在のサラブレッドは、父系を遡ると例外なく3頭の馬に辿り着く。

その3頭とは

ダーレーアラビアン

・コドルフィンアラビアン

バイアリーターク

である。この馬たちは1750年前後の馬なので、言うなればサラブレッドの祖先である。一般的に彼らは「三大始祖」と呼ばれている。

その彼らの血を受け継いで、その血統を飛躍的に繁栄させた子どもたちがいる。

ダーレーアラビアン → エクリプス(5代目)

・コドルフィンアラビアン → マッチェム(3代目)

バイアリーターク → ヘロド(4代目)

このエクリプス、マッチェム、ヘロド以外の血を引く父系は、現在は存在しない。当初数多く存在した系統の馬たちも、この3頭の子孫たちにおいて淘汰されたのである。そのため、三大始祖に次いで、この3頭は「三大基礎種牡馬」と呼ばれている。

サラブレッドの世界は、結果が全てである。牡は強い馬、早く走る馬のみが遺伝子を残せるというルールの上に成り立っている。系統の保存という観点も無いことはないが、基本的には走らない血統は淘汰されていくことになる。

そのため、この3大始祖においても系統が占める割合、シェアにもおおきな差がある。

現在、ダーレーアラビアンーエクリプス系が世界シェアの90%の後半を占めている。特に日本においては、この系統が実に99.6%を占めている状況である。

凄まじい勢いで日本を席巻した輸入種牡馬たちは、ほぼこの系統なのである。

そこそこ古い馬だと、ノーザンテーストというカナダの輸入馬が日本を席巻し、その後、アメリカから輸入されたブライアンズタイムという馬がナリタブライアンタニノギムレットを出し、リアルシャダイというフランスの馬ががライスシャワーを出したり、アイルランド産のトニービンという馬がウイニングチケットジャングルポケットという馬を出している。

最近(と言ってもおよそ20年前)の馬で言うと、サンデーサイレンスという伝説的な馬がいた。アメリカで活躍した輸入種牡馬で、近代競馬の結晶、ディープインパクトという馬が代表的な後継産駒である。そもそも毎年毎年、当たり前のように産駒がG1を勝ち続け、あまりに勝ちすぎるので、近年の日本国内の種牡馬サンデーサイレンスの子供ばかりになってしまった。最近の日本競馬の歴史に名を刻んでいる馬はほぼ、このサンデーサイレンスの血を引く馬なのである。

 

コドルフィンアラビアンーマッチェムの系統においては、1950年代に月友(つきとも)という馬が持ち込み馬として輸入され、種牡馬として日本で成功を収めたようである。その後はマッチェム系の産駒はそこまで多くの活躍馬を出せず、現在日本では見ることのない血統となってしまった。世界シェアは1.8%と言われている。

僕の記憶だと、この系統はマークオブディスティンクション産駒のホッカイルソーくらいしか知らない。ウォーニングなんていう馬も輸入されたので気にはしていた。しかし残念ながら日本では目立った活躍馬は出なかった。

 

最後にバイアリーターク - ヘロドの系統については、更に危機的状況である。1960年代にパーソロンという馬がアイルランドから日本に輸入され、シンボリルドルフという7冠馬を始めとする人気馬を多数輩出した。日本においては昭和後半から平成初期の時代を彩ったスーパーホース達の中にパーソロンの血を受け継いだ馬は多い。3冠馬シンボリルドルフ、その子であるトウカイテイオーメジロマックイーンサクラショウリ - サクラスターオー など。

現在この系統は、世界シェアで見ても、各国ともほぼ0%に近い壊滅的状況となっている。

 

ギンザグリングラスの話に戻ろう。

彼は現在、日本において最後のバイアリーターク - ヘロド の系統に属する馬であり、マイノリティ、少数派の馬である。

少数派の絶滅血統であるが故に109戦3勝という成績でも種牡馬になれた、と言っても過言ではない。これも熱心なファンがあっての奇跡と感じる。

彼の特筆すべき点は、古い競馬ファンであれば、ヨダレが出るほどのコテコテな日本血統にある。

彼の父はメジロマックイーン。鞍上は武豊菊花賞天皇賞春、宝塚記念を勝った芦毛の名馬である。ステイヤー(長距離レースに強い)と思われがちだが、実は相当なスピードを持っていたと言われる。実際速くて強かった。

この、メジロマックイーンの父はメジロティターンと言い、天皇賞を勝っている。

メジロティターンの父はメジロアサマと言い、これも天皇賞を勝っている。

メジロアサマの父が、パーソロンである。

パーソロン(輸入)

メジロアサマ(初代)

メジロティターン(2代目)

メジロマックイーン(3代目)

ギンザグリングラス(4代目)

なのである。

国産馬の4代目は、国内最多タイ記録なのです。他にタイ記録を持っているのは、グランアクトゥールという馬である。この馬もなかなか凄い血統なのである。父が同じくメジロマックイーンで、母の父がシンボリルドルフ!あの、有名なルドルフ7冠なのである。それによりパーソロン3×4という、今では考えられないクロス(インブリードといって祖先に同じ馬を持つ近親交配)持ちなのである。グランアクトゥールは、3戦1勝、骨折引退となり、産駒はいるもののターフにはデビューを果たしていない。

今思うと凄い勿体ない馬である。マックイーン×ルドルフなんて、夢みたいな話である。ゲームの世界くらいしか実現できなそうなことが、現実にあったのである。

実は、ギンザグリングラスの母馬の系統にも国産の良い馬がいるのである。

母方の系統にホリスキーという馬がおり、ホリスキー菊花賞勝ち馬である。そのホリスキーの父はスーパーカーことマルゼンスキー。幻のクラシックホースと呼ばれた馬である。更にその父はニジンスキーというイギリス三冠馬。母系はリファールからなるフランスのノーザンダンサーの系統。

ギンザグリングラスは、国内の競馬の歴史たる血筋を引いた馬であり、今となっては淘汰された一族の最後の生き残り。奇跡の血統を紡ぐ馬なのである。

この日本のガラパゴス血統でもある、世界的にもマイノリティな血統。何とか再び日の目を見れないものか。競馬の夢やロマンという中に、血統背景という楽しみ方がある。僕は、マイナー血統が好きである。それは高校野球でいえば公立高校を思わず応援してしまうような、力関係で劣勢である方の味方についてしまう性質が働き、頑張って欲しいと思うのであろう。

ただし、競走馬の生産は慈善事業ではないのである。血統保護の観点からすると、歴史的価値は感じるものの、馬には人間のように様々な、多様な才能を発揮する場が無い。競走馬は速く走ってこそ、競走馬の価値が見出されるのである。

このまま消えるのか、はたまた息を吹き返す奇跡の血統となるのか。

僕個人の見解は、養子縁組が理想的であるが、残念ながらこればかりは、どうしてもできないのである。そのため、母父がサンデーサイレンス系の繁殖牝馬に牡を産んでもらい、その子に成り上がってもらうしか無いと考える。実力社会なので、結果が全てなのである。まずは婚活でいいお嫁さんを口説き落として欲しい。

メジロマックイーンの子孫が再び天皇賞制覇を実現して、芦毛の一族の再興を願うばかりである。多分日本人の大半は、こう言った話を聞くと思わず応援したくなると思われる。

そう考えると僕は多くの人と同じ感覚を持つ、いわゆるマイノリティではない、マジョリティとなるのであろう。

 

3000文字チャレンジで、完全に趣味打ち的な競馬ネタを書いてしまったのでありました。

 

最後まで読み切って頂き、感謝です。

 

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